「虚実皮膜」とは、芸術は虚構と事実との、皮と膜とのようなほんのわずかな間にあるという意味で、近松門左衛門が語ったとされる言葉だ。しかし、実際にそうかは時と場合によるだろう。本書で扱われる「ロックフェラー失踪事件」について知れば、「虚実の皮膜」にあるのは悲劇でしかないということを痛感する。 事件は1961年のオランダ領ニューギニアで起きた。ロックフェラー家の一員として輝かしい未来を約束されていた、マイケル・ロックフェラーという米国の白人青年が、現地のアスマット族によって殺されたのだ。単なる殺人ではなく、首狩りに遭い、その後食べられてしまった。 当時、さまざまな事情から真相は闇に葬られ、事件の原因はその後「失踪」や「溺死」とされた。本書はその事件の一部始終を徹底的に調べ上げ、なぜマイケルが殺されなければならなかったのかという核心に迫った衝撃のノンフィクションである。 アスマット族の世界は、西洋