【兵庫】有馬温泉と聞くと、思い出す味がある。薄くてパリパリ、ほんのり甘くて優しい、あの味。炭酸煎餅だ。 神戸・有馬の「三ツ森」は、1907年から炭酸煎餅を作り続けてきた。だが昨春、常務取締役の弓削次郎さん(48)は本気で思った。「歴史に幕を下ろさなければならないかも」。救世主が現れるまでは――。 ◇ 温泉街のメインストリート・太閤通に本店がある。子どものころ、祖父母に会いに行くと、おやつに炭酸煎餅を食べさせてくれた。「素朴で、どこか幸せを感じる味です」 職人だった祖父が2代目、父が3代目の現社長だ。大学卒業後、専門学校で和菓子の勉強をして有馬に戻った。 有馬で働く一員になってみて、そのブランドの重みを知った。「有馬ってやっぱり雰囲気あって、いいところだね」。観光客の会話を耳にするたび、誇らしかった。いつのまにか、来た人に「お帰りなさい」と声をかけるようになっていた。 ◇ 「有馬温泉がモチー