昔の文人は本名ではなく雅号を使ひます。大正時代まではその伝統は強く残つたやうです。雅号とは、たとへば森鴎外の「鴎外」がさうです。森鴎外の本名は森林太郎です。大石内蔵之助良雄ではありませんが、雅号がつくといかめしい感じがします。 明治末から徐々にこの伝統を破る傾向が現れたやうです。白樺派の作家などが典型でせう。志賀直哉とか有島武郎とか武者小路実篤とか、みな本名を使つてゐます。それ以外にも、菊池寛や芥川龍之介や久米正雄なんかも本名です。大正期、昭和期の新しい作家はほとんどが本名です。 本名を使ふ人が増えるのと平行して、姓まで変へてしまふ筆名の人が増えました。とりわけ、探偵小説は筆名を用ゐる作家が多いやうです。江戸川乱歩とか、夢野久作とか、海野十三とか、久生十蘭とかです。さういへば、キチガヒ男こと、橘外男といふ作家もゐますが、これは本名です。なんとも気の毒な名前です。 しかし、雅号といふのは変な
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