わたしが作家・小松左京の名前を知ったのは、1964年のことである。 京都大学人文科学研究所(人文研)の助手として10年がすぎ、前年から1年間、アメリカのアイオワ州グリネル大学で交換教授として教え、帰国したばかりのころであった。アメリカ生活は3度目であったが、まるまる一年も日本を離れたのは初めてで、帰国したときには一種の精神の空白状態。それを埋めるべく、誰かれつかまえては、この間に読むべき本は出たか、必読書は何かとたずねてまわった。すると助手仲間の多田道太郎、樋口謹一、山田稔の各氏や謹厳な高橋和巳までもが異口同音に、小松左京という新進作家の長編小説『日本アパッチ族』こそ必読書であるという。 さっそく買い求めて読んでみたが、たしかにおもしろい。人間が鉄を食うという発想が奇抜だし、その設定を押しとおす腕力と図々しさ。山田稔が山田捻(ひねる)という名前で出てきたりもする。抱腹絶倒するとともに、こん