※試聴はこちら このアルバムは『機動戦士ガンダム・サンダーボルト』のサウンド・トラックだが、おさめられているどの曲もいわゆる劇伴音楽ではなく、登場人物たちの耳に聞こえているという(つまり劇中音楽の)形をとっている。彼らが聴いているすべての楽曲を菊地成孔が作っているからには、このガンダム世界において菊地成孔は唯一絶対のヒットメイカーであるということになるが、登場人物たちは自分が愛聴している楽曲の送り手が(地球西暦21世紀在住の)菊地成孔であることを知らない。ピアノを弾いているのが大西順子であることも知らない。何も知らないで聴いている。知るはずがないのだ。知っているのは、このアルバムを聴いている(こちら側の)私たちだけだ。この点について本稿は、ホラでも屁理屈でもなく真剣に考えたいと思う。 私たちが暮らしている世界そのものが天文学レベルの時間を持った一編の映画「甲」であると仮定した場合、その内部