Nottingham大で哲学を教えているKatharine Jenkinsが,トランスの権利運動によく登場する性同一性[gender identity]とはなんのことかについて説明する論文,Jenkins 2018を書いている.この論文は,哲学業界で最近流行している,概念工学という研究ジャンルの一例でもある. トランスの権利運動に対して,ちょっと気の利いた人間なら思いつく疑問がいくつかある.私はこの論文をそういう疑問への応答として読んだ.たとえば,この論文を読むとおそらく,トランスの権利運動が,必ずしも性同一性についての自認を絶対視する必要はない,ということがわかるだろう.また,以下のような立場をとりたいと考えるなら,この論文をよく読み,応答を考える必要があると思う: 性同一性や性自認1といった怪しげな概念を使っているのだから,トランスの権利運動はばかげているにちがいない. トランスの権利