これまで映画に関するものを細々と間欠的に書いたり翻訳したりしてきたが、私がはじめて監督やスタッフの存在を強く意識したのは、高校生のとき、NHK初のアニメシリーズとして放映された『未来少年コナン』を観てだった。全体を組織している強烈な人間がいると感じ、アニメ雑誌を買って確かめた。そしてはじめて公にした文章は、大学院生になってほどなく封切られた『天空の城ラピュタ』の映画批評だった。けれどもそれ以降、宮崎駿について書く機会を逸し、何かやるべきことをやっていないような後ろめたさを心の片隅に感じてきた。『シネアスト宮崎駿──奇異なもののポエジー』を翻訳し終え、肩の荷がずいぶん下りたような気がする。 2011年に刊行された本書は海外における単著の宮崎駿モノグラフィの草分けのひとつであり、フランス語圏におけるその嚆矢である。『崖の上のポニョ』(2008年)や『風立ちぬ』(2013年)への言及が欠けている