ジェスターという英語を覚えたのは、1960年代後半の学園紛争の盛んな頃のことで、私は九州大学教養部の物理の教師をしていました。先鋭な思想の学生たち、それに押される形で、教師たちも、「大学とは何か、社会の中での大学の責務とは何なのか、教師と学生の関係はどのようにあるべきか」などの難問題をかかえて、真剣に悩んだものでした。いろいろな考えが飛び交う中で、ある大学の学長さんが「大学の役割は、かの中世のジェスターであるべきだ」と唱えられました。これがこの言葉との出会いでした。これは私の無知不学のいたすところで、ヨーロッパ中世の宮廷お抱えの道化師のことと分かってみれば、この学長さんのおっしゃる意味もぼんやりと解せました。 ヴェルディーのオペラ『リゴレット』のリゴレットもジェスターですが、シェークスピアの『リア王』に出てくる道化師(フール)もその有名な例です。道化師は、物事をあるがままに正直に見て、思っ