子供の入院に付き添って、しばらく病院に滞在していた。 手術の前後は必ずいなければならないのだが、親がすることできることは限られていて、概ね退屈な時間が続く。持参した本を読み終えて、院内文庫で本を借りることにした。頭は使いたくないが、すぐ読み終わるようなものは困る。村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」があった。好きな小説だが、ここ数年は読んでいなかったので、これを読み始めた。 小児病棟というのは、悲劇が日常になっていることが、感じられないくらい空気に溶け込んでいる場所だ。 付き添いで泊まり込んでいる若い母親が、もう泣きたいよーと笑いながら話す声が聞こえる。子供なんて、普通に生まれたら普通に育つもんだと思ってたら、まさか癌になるとはね。私からは見えないところから、笑い声の合間に鼻をすする音はするが、声は乱れず明るい。 細い足をむき出しにした小さな子を抱っこ紐で抱えたパンクファッションの母親が、