私はつねづね「素人発想・玄人実行」と言ってきた。 素人のように発想して、玄人として実行するということだが、これは、玄人つまり専門家に対する警告なのだ。と同時に私自身への自戒でもある。 研究開発にとって発想は、単純、率直、自由、簡単でなければならない。そんな、発想を邪魔するものは何か。それはなまじっかな知識---知っていると思う心---である。 知識があると、「それは難しい」「そんな風には考えないものだ」などという。 私などのように大学教授とよばれる職業の人間はつい「その考えはね、何年に誰それがやろうとしてできなかったんだ」などと知識を披瀝したくなる。 実際、専門家とは「こういう場合には、こうすべきだ」「この場合は、こうしてはならない」というパターンを習得した人である。逆に言えば、その型に呪縛されることになる。飛躍した発想が生まれない危険性がある。 既存の方法でうまくいったという経験と知識が