書名の『すばらしき愚民社会』は、むろん、オルダス・ハックスレーの逆ユートピア小説『すばらしき新世界』から取られている。『すばらしき新世界』という題名は、むろん、シェイクスピアの『嵐』の中のミランダの科白から取られている。これぐらいのことは、知識人なら一般教養としてむろん知っていなければならないし、東京大学など一流大学の英文科の学生なら、自分の専攻分野のことだから、むろん知っているはずである。 ところが、これぐらいのことさえ誰も知らないんだよなぁ、という著者小谷野敦の嘆きの声が聞こえてきそうだ。自ら東大英米文学科を卒業し、東大他の名門大学で学生を教えている小谷野は、大学がレジャーランド以下になってしまった現代社会を痛烈に批判すべく、書名にもこんな仕掛けをしているのだ。 私は、高校も大学も私立しか行けない劣等生で、しかもその大学も遊び呆けて落第をくり返していたし、その上、専攻も法学部だった