目の前ではじける泡、口からのどに広がる清涼感――。真夏に飲むビールの最初の一口のおいしさはたとえようもない。このビールの味を日本人に教えたのも横浜だった。 ビールは開港当初から輸入されていたようで、1861年(文久元年)11月、外国人居留地で「ジャパン・ヘラルド」という新聞が発行されると、さっそく広告にビールが登場する。テクスター商会の広告では50本10ドル。はるばる大洋を越えて運ばれてくるビールが安かったわけはない。 1863年(文久3年)以降、イギリス軍とフランス軍が山手に駐屯すると、ビールの需要は一気に拡大した。調練に励めばのどが渇くのが当然だからだ。1865年(慶応元年)5月には、ドイツ人の自称パトウ男爵が、拡大する需要に応えるべく横浜最初のビアホールを開設した。 ビールの醸造はいつから始まったか。1932年(昭和7年)刊行の「横浜市史稿・産業編」は1872年(明治5年)にアメリカ