ハタチのころ、よくつけていた香水があった。 高校を卒業するときにデパートのカウンターで(背伸びをして)買ったそれはフリージアとスズランの香りで、ひと吹きして出かけると、会った友達みんなに「いい匂いがする」と言われた。 嫌味のない、さわやかな香水だった。 あるとき、苦手だった先輩が、すれ違った私を振り返って「すごくいい香り」と言った。考えてみると、その香りを苦手と言う人に会ったことがなかった。 私は当時、ダズリンやスナイデルのひざ丈ワンピを着ている大学生の自分と髪の毛を刈り上げのベリーショートにしたい気持ちで毎日揺れていて、端的に言えば万人ウケを捨てきる勇気のない美大女だった。 先輩の言葉は「みんなが好きな香りをつけている自分」という醜い自覚を生み、やがてそれは呪いになった。 私はその香水をつけるたびに「なんて安っぽい香りなんだろう」と思うようになり、やがて二軍落ちしたそれは適当な瓶に詰め替