「はぁ、困ったなぁ…」 西日本の地方銀行A行の情報システム部員、岸井雄介は、ため息と共に社員食堂のテーブルに着いた。 「どうしたんだい、さえない顔をして」 「あっ、西部さん。聞いてくださいよ」 「何があった?」 「課長ですよ。課長が、私の仕事が遅いって怒ってるんです」 * * * 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A行の情報システム部の課長補佐である。入社以来A行のシステム部でシステム開発を担当し、システムの設計、プログラム製作、テスト、移行などに携わってきた。最近システム企画の担当部署に異動した。 もともと仕事はできる男なので、システム企画でも活躍するだろうと前評判は高かったが、システム企画の仕事ではなかなか成果が出なかった。岸井が苦しんでいた仕事は、金融機関のサービスをIT技術で高度化する、いわゆるFinTechの仕事だ。A行の経営陣は最近日本でもFinTechがクローズアップ