映画に刺激や驚きを求める私たちは、ときに「静かすぎる物語」に戸惑う。そこに感動のクライマックスはあるのか?感情を揺さぶる劇的な展開は?そういった問いを抱えたまま、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』を観始めると、しばし拍子抜けするかもしれない。 本作の主人公・平山(役所広司さん)は、東京都内の公共トイレを清掃する男だ。黙々と、しかし丁寧に、日々の仕事をこなす。朝、目覚め、顔を洗い、植物に水をやり、小さな車に乗って現場に向かう。車のカセットデッキから流れるのは、ルー・リードやパティ・スミス。彼の一日はほとんど変化がない。 地味である。非常に地味だ。けれど、その“地味さ”こそが、なぜか心に染みてくる。 平山という存在の“地味さ”と“特別さ” 平山は、人目に触れにくい仕事に、静かで揺るぎない誇りを抱いている。ときに不快な作業に直面し、すれ違う人々の視線や無神経な態度に傷つくこと
