- 中年男の梅吉は少年のような矮軀(わいく)であったが、きちんとした堅気の風体で、連れの三十がらみの男と茶店から出て来て、参道を遠ざかって行った。そのとき、 「では、明後日。またここでね、いいかえ」 という梅吉の声が、はっきりとおふじの耳へ入った。 連れの男は縞の紺木綿の半てんのようなものを着こみ、手に小さな風呂敷包みを持っていたという。 「それからはもう、しばらくは、そこをうごけもせず、おそばも食べずにじいっとしていましたけれど……こわいのをがまんして、やっと……」 「そうか。そりゃあ、よく見ておいてくれたな」 「小野様さま、御役にたちましょうか?」 「たつとも。いや、たてずにはおかぬ」 「ま、うれしい……」 梅吉がいう明後日というのは明日のことであるから、小野十蔵はすぐさま役所へもどり、御頭の長谷川平蔵の指示をあおぐと、 「おぬしにまかせよう」 この御頭は、にっこりとして、 「おりゃ、
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