ワイエスの名前を知ったのは、NHKの美術番組「日曜美術館」を見ているときだった。そこで紹介された彼の作品のうちの二点に心を惹かれたが、それ以外に格別の感想はなく、この番組で紹介される多くの現代画家と同様に、彼のことはそのまま忘れてしまうかに思われた。 ところが、問題の二点の絵が、どうしても頭から離れないのである。 その一つは穀物か何かを収納しておく納屋の羽目板を描いたものだった。水彩画に近いような淡泊な作品で、画面の大半が平塗りで描かれた板壁によって成り立っている。 もう一つも水彩画のように淡泊な絵で(実際、水彩画だったかもしれない)、これも何処にでもあるただの草原を描いたものであった。画面いっぱいに拡がる草が描かれているだけなのである。 イラストみたいにありきたりで、挿絵にあるように平明なこの二つの作品が、なぜか頭の中でどんどん鮮明になって行くのである。何処にでもある素材を描きながら、こ