旅行は別に好きでもない。観光地に興味はない。私の目的は空港とホテルだった。 待合のラウンジに並ぶプラスチックの椅子と、添え物のような観葉植物を眺めながら通路を歩くのが好きだった。 窓のない、オレンジ色の照明に照らされたクリーム色の廊下を歩くのが好きだった。 全ては過去形だ。私はとみに貧しくなった。きっともう、飛行機を飛ばすような距離に旅行へ行くことはないだろう。 だからもう、窓のない廊下も、飛行機の見える通路も歩くことはないだろう。 でも別に空港なんざ行くだけなら行けるし、ホテルだって近くのものに泊まればいい。 やっぱり旅行が好きだったのかもしれない。観光地に興味がないだけで。