7年前の夏、埼玉県鳩ケ谷市(現・川口市)の市立教育研究所長だった宮原重則(70)は、研究所の一室に当時21歳の男性を迎えた。 男性は出生後も親が戸籍を作らず、学校に一度も通ったことがなかった。元小学校長の宮原は男性に中卒程度の学力をつけようと、週2~3回のマンツーマン授業を始めたが、のっけから途方に暮れた。 ひらがなや数字は少し書けたが「8」は団子二つ、「6」のなぞり方は逆。足し算引き算は両手指で数えた。宿題を出してもやってこない。問題がわからないと身を硬くしてじっとした。「固まるのが彼の最大の武器だった」。どう教えればいいのかわからなかったという。 男性は20歳まで家族以外に知られることなく生きてきた。存在を知られたのは、自身が犯した事件がきっかけだった。 2006年10月、男性はスーパーでの窃盗などの容疑で逮捕された。警察の調べで住民登録をしていなかったことが判明。同居の母親に照会する