方丈記について 浅見和彦 (成蹊大学教授) 「ゆく河のながれは絶えずして……」。方丈記は古典文学随一といってよい名文の書き出しで始まる。作者の鴨長明は平安時代の末、京都の下鴨神社に生まれた。そのころは源平の争乱で京都は戦場と化し、日本全体が内戦のような状態だった。そうした混乱に拍車をかけたのが平安京を襲った大災害。大火、竜巻、飢饉、そして大地震。人々は逃げまどい、傷つき、飢え死んでいった。長明はそのすべてをまのあたりにした。悲惨な光景を目にした彼は強い衝撃をうけ、その惨状を方丈記に書きとめた。その視線は現代のジャーナリストと重なりあう。後年、長明は隠遁し、山中に庵を構え、自然の中で自由な人生を送った。雑踏と喧騒の都会生活を嫌い、のんびりとした田舎暮らしに憧れる現代人の心情とも共通する。ちょうど今年は方丈記成立800年にあたる。