桜の季節の京都を舞台に、水原紫苑さんが短歌を詠むドキュメンタリー「H(アッシュ)」は、今年で3本目になる。 水原さんは、毎回、新しいノートを用意して吟行に臨むが、今回は着物によく映える桜色のノートだった。 ロケの2日間に生まれた短歌は、なんと50首近い。 これから取捨選択して、推敲もされるわけだから、最終的には30首ほどになるのかも知れないが、短歌を書き始める、まさにその瞬間、水原さんは中空を見つめ静止する。 それから、おもむろに筆を取り短歌を書き始めるのだが、その姿は憑代(よりしろ)のようでもある。 磐座(いわくら)や神籬(ひもろぎ)に降り立ちながらも、すぐさま世界の背後に退く神が、水原さんの身体を借りて残したものが、水原紫苑の短歌なのかも知れない。