市民館の図書室に未読の北村薫さんの作品を見つければ、どうしたって借りてしまう。先日、『鷺と雪』を見つけ、いそいそと借りてきた。 時は昭和初期。まだ伯爵だの子爵だのといった階級が存在した時代の物語だ。主人公はそうした華族や皇族の学友を持つ良家の子女、花村英子。彼女が出合う事件や謎を解決するのに、抜群の推理力で手助けするのは、彼女の車フォードの専任運転手別宮(べっく)みつ子さん、愛称ベッキーさんである。 この二人が活躍するシリーズは三部作だそうで、この作品はその最終作で、直木賞を受賞した作品であるらしい。先の二作未読で、北村ファンと言うのもおこがましいけれど、いきなりこの作品を読んでも十分に楽しめた。 「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」の三篇からなる。 「不在の父」は、東京駅の裏で川底をさらっていたルンペン3人が真鍮の塊を見つけ警察に届けたが、拾得物の書類を作るのに住所がなく、1年後の権利