高瀬のために時間を使えないもどかしさを決して表に出さぬよう、病室では俺なりに明るく振る舞っているつもりだったけれども、ベッドの上の柏木は明るさの裏にある焦燥感を見抜き、こともあろうに俺を気遣ってきた。 「悠介くん、ワガママ言ってごめんね。優里ちゃんと一緒にいたいよね」と。 それに対し俺は、ぎこちない作り笑いを浮かべるのが精一杯だった。心身共に疲れ切って、「何言ってるんだよ」と取り繕う余裕さえ失っていたのだ。 その結果、強烈な自己嫌悪に陥りながら、俺は家路についている。 9時を過ぎた夜の街には、冬特有の冴え冴えと澄み切った空気が隙間なく敷き詰められていた。 病院を出たあたりから、やけに喉の奥がいがいが(・・・・)して不快だ。どうやら風邪をひいてしまったらしい。 もし熱でも出して倒れたら、「だから言ったじゃない」と高瀬に渋い顔をさせてしまうから、今夜は温かくして早めに眠ってしまおうと決めた。