シャツ、スカート、下着を足元に脱ぎ捨て、素肌に水の柔らかさと光の屈折を感じて、音のない空間をどこまでも心の赴(おもむ)くままに進んでいきたい。水温が肌になじむにつれ、自分と世界の境界線が曖昧(あいまい)になり、体重も年齢も性別もその意味を失う。言葉を発しようとしたら、すべてあぶくになって高く高く昇り、白い彼方に滲(にじ)んでやがて消えていく。暑い季節は終わろうとしているのに、何故そんな風に思うのだろうか。 コースロープで区切られたように整然と並んだデスク、水面を思わせるしんとした薄青い無人の空間。塩素とインクのトナーのにおいも、何かを思い出しそうになる刺激臭という点で、非常によく似ている。誰にも邪魔されずに仕事をするため、一人になれる時間と場所を探したら、一日の大半を過ごしているこのオフィスに結局、行き着いた。自分のもっとも有能な面を発揮しなければいけない空間なのに、今なら意味不明なことを