ショートケーキにホイップされたクリームを従えて乗っかっている苺や、ハンバーグの横でバターにまみれて人参・インゲン・コーンとつるんでガロニ顔している馬鈴薯や、駅前にある定食屋のネギトロ定食に付いてくる茶碗蒸しの底にいる銀杏はピリリとスパイスの効いた小さい宝物みたいなもので、僕は最後の最後まで大事に取っておいて期待を最大限に膨らませてから食べるようにしている。炭火焼肉屋の網上煙下唯我独尊宝物は特上カルビ。それを惜し気もなく迷いのない初球打ちでひょひょいと食べてしまう口元を眺めながら僕は本当にこの口元と同じ遺伝子を持っているのかと疑ってしまう。 長年勤めた仕事を辞めた母の慰労で焼肉を食べに行ったのはこの夏の終わり。僕がオーダーをチャチャっと済ませたところに母が切り出す。「焼肉を奢ってくれるなんて珍しいわね。何を企んでいるの?金?あんたにあげる金は一円もないわ。そういえばこないだ生命保険に入ったっ
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