漫画を描く作業をコンピューターで代替するのではなく、コンピューターでできることを漫画表現に落とし込んでいくことで、自分の描きたい世界、表現したい絵を創造しようとする漫画家、浅野いにお氏。その作品はデジタルとアナログ、紙とデータを行き来しつつ、試行錯誤を繰り返しながら構築されてきた。 浅野氏は 2000 年代のはじめ、まだ出版業界がデジタル入稿に対応していなかったデビュー直後の当時から、デジタル環境での作画を漫画に取り入れる試みにトライしてきた。写真をトレースしたような背景の描き方や、絵の表現の一部として加工したフォントの使い方など、その独特な画作りからデジタル作画のイメージが強い浅野氏だが、意外にも作画はフルデジタルではないという。 その工程は実に複雑で独特だ。写真をもとにした背景は、デジカメで撮影したものをスキャンして、Photoshopで不要な部分を消したり、画角の調整や描画の加工をし