「生物は種族を維持・繁栄させることに生存理由がある。」1964年、当時ロンドン大学の大学院生であったハミルトン(W.D.Hamilton)によって、こうした“定説”を覆す画期的な理論が提唱された。 ダーウィンが『種の起源』の中で投げかけた、働きバチが自らは直接生殖に関与しないのに、一族のために働くという「利他的」な性質がどうして子孫に伝わるのかという疑問に対して、100年以上を経てハミルトンが集団遺伝学の見地から新しい「血縁淘汰(選択説)」を提唱したのである。簡単にいえば、この「他を利すために働く」行為によって、自分と同じ遺伝子を持つ血縁者である女王バチが多くの子供を残せば、このような利他的な性質の遺伝子もまた子孫に継承されるという理論である。いいかえれば、動物は同じ種族でも血縁関係のない非社会性の個体間で、自分の子供を減らしてほかの個体の子供を増やすようなことはないというわけである。