JINSEI STORIES 滞仏日記「旅先でしか語りあえないこと」 Posted on 2018/12/28 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、旅先でしか語りあえないことがある。家にいる時ってあんなに話し合うチャンスがあるというのに、会話にならないことがほとんどなのはなぜだろう。今日、アルト地区にあるファド(ポルトガルの民族歌謡)が聞けるレストランに夕食に出かけた。宿からそこまで30分ほど歩いた。下町の飲み屋街の路地にその店はあった。パリならばバスティーユのロケット通りみたいな、ざわついた場所である。知らない土地を歩いて初めて入ったレストランで食べたことがない地元料理が出てくる前のなんてことはない停滞した時間の合間・・・。壁際のテーブル席で、正面に息子が座っていた。すると不意に息子がとってもいい話をし始めた。「まだ会ったことがない友達が二人いるんだ」ネットで知り合った同世代の男の子と女の子