「君って、初対面の人が居ると全然しゃべらないよねえ」と彼女は言った。ああ、人見知りするんだよ、と僕は返す。 周囲の喧騒で少し声を張り上げないと聴こえない。これぞ安居酒屋といった風情なのでムードもあったもんじゃないが、一応はデートのつもりだ。 彼女は、ふーん、確かに初めて逢ったときは無口だったもんねえ、と言った。仲良くなったら普通なのに、とも。 彼女の箸は小鉢の塩辛をクリクリとかき混ぜていた。なにやってんの、それ納豆じゃないんだから、と言いかけて、飲み込んだ。 僕が人見知りになったのは、中学生の時だった。 我が家は両親共働きだったので、学校の給食が出ない週末はおばあちゃんの家でお昼ご飯を食べて両親の帰宅を待つ、というのが習慣だった。それは中学生になっても変わらず、なんとなく週末はおばあちゃんの家で過ごしていた。 おばあちゃんは常に穏やかで無欲な人で、早朝の読経と内職を日課に地味に生活していた