疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それ以来はじめて知人が結婚した。元部下の矢島である。 ほんとはかちょーにスピーチしてもらいたいんですけど、と矢島は言う。この状況で身内以外式に呼べないんで。呼べたってスピーチはいやだよとわたしは言う。今の上司にしてもらいなさい、そういうのは。 矢島はわたしをずっと「かちょー」と呼ぶ。わたしの肩書はすでに課長ではない。「あだ名です」と矢島は言う。 そう言う矢島自身のあだ名は「サイコパス矢島」である。現在はカスタマーサポートの部署の管理職で、わたしがその部署の責任者に着任したときは若きエースパイロットといった立ち位置だった。通常のフローでは対応が難しいクレームを驚くべき速度でおさめる、いわば窓口最終兵器である。ならば部署の社員たちにさぞ慕われているのだろうと思ったら、あだ名がひどい。どうしてでしょうと訊いてみると、その社員は