「新しい砕氷艦は、この先25年から30年使います。船体を痛めず、また南極の海を汚しません」 新型しらせの構造設計を担当した佐藤幹夫は、プロジェクトのなかでステンレス複合材の使用を主張した。 旧しらせは、他の多くの船舶と同じように船体外板には高張力鋼(引っ張り強度が通常の2倍以上ある鋼材)を使用していた。普通の海洋を航行するには問題はない。だが、氷海となると話は別だ。 船首部や喫水線部などは、氷との接触や砕氷のために大きな力がかかる。このため旧しらせは、微量だが塗料がはがれていた。毎年繰り返すうちには、はがれた部分から腐食していく。さらに、船体が凹損する事象も起きていたのだ。これは、旧しらせに限らない。南極観測を行う諸外国の砕氷船でも、同様の現象が見られた。氷が船底に入り込み、少なからぬ損傷を受けてしまうためだった。 南極の氷は、それだけ強敵なのである。 鎌形將人・防衛省技術研究本部技術開発