インタビューと文章: 榎並紀行(やじろべえ) 写真:藤本和成 ノワール小説の名手として知られる馳星周さん。 北海道の田舎町で育った読書好きの少年は、18歳で上京。同時に、新宿ゴールデン街という、新宿歌舞伎町のなかでも最もカオスな一画に足を踏み入れ、濃密な青春時代を過ごします。 そこを訪れる、身勝手な酔っ払いたちを嫌悪していたという馳さん。しかし一方で、自らを育て、小説家としての礎を築いてくれたゴールデン街には愛憎半ばする特別な感情を抱いているようです。 新宿ゴールデン街で過ごした、青春時代について伺いました。 一通の手紙から膨らんだ、東京への思い ―― 少年時代から本の虫だったそうですね。ただ、当時は自宅近くに大きな本屋がなかったとか? 馳星周さん(以下、馳):地元は北海道の日高地方。サラブレッドの生産地で、人より馬が多いと言われるような、ものすごい田舎でした。本屋も街に一軒しかなく、それ