今週のお題:最近のマイブーム 当地で<きのこブーム>と時を同じくして訪れるのが、<りんごブーム>。早朝のきのこ採取を終え、冷えた体を暖めに給湯室へ戻り、食べたら食べた分だけ補給されるりんごの山から一つかみ。齧りつく前に軽くゴシゴシ、俄かに艶やかな光を放ち始める深紅の果皮とシャンパン色の果肉、そのコントラストに暫し見惚れる。 りんごを前にすると、過去から滲みだしてくる情景がある。時は、冷たい雨がそぼ降る季節。私は病人の枕辺に座り、独り本に目を落とす。どれほど時間が経過したろうか、彼の規則正しい呼吸音と雨音が充たす空間で、誰かが置いて行った見舞いの果物籠にふと目に留まった。何もかもを陰鬱の湖(うみ)に沈めてしまう蛍光ランプのもと、籠から覗くりんごだけが宝石のように瑞々しい。やにわに手に取り、慈しむように磨く。磨けば磨くだけ艶やかさを増してゆく丸い深紅の果実、それをただひたすら力を込めて磨き上げ