乙武がレストランに同伴しようとした女は愚者である。彼女は乙武が二階のレストランに上がれないというだけで泣き出したのである。女に泣かれては、男は強くならなければならない。手足がない乙武でもそれは同じことである。女が泣くのは基本的に泣き真似なのだが、この愚者もそうである。われわれが朝食をシリアルで済ますようなお手軽さで泣いたのだ。コーンフレークに牛乳を掛ける程度の労力で女は泣ける。乙武がこの同伴の女について沈黙しているので想像するしかないが、二階でいろいろ交渉して困惑したのだろう。乙武のためにはバリアフリー原理主義を貫かなければならないが、しかし乙武を二階に運ぶのは無理がありそうである。だから立ち往生するしかなく、その困惑の表現として乙武の前で嘘泣きしたのだ。こうなると、乙武は英雄譚の主人公たる役目を背負わされる。われわれの人生は物語によって構造化されている。女が泣いたから助けるという、そうい