そうだ、この人はやはり作家という宿命を生きているのだ。大江健三郎の新作「取り替え子」(講談社)は、読む者にあらためてそう感じさせる、異様なまでの迫力をもった作品だ。愛媛県の山村に生まれ、松山の高校に進んだ大江健三郎は、そこで伊丹十三に出会って強い影響を受け、やがてはその妹と結婚するにいたる。その義兄の自殺とそれをめぐるスキャンダル騒ぎは、作家に強い衝撃を与えたらしい。それを機に書かれた新作には、自分たちを批判し追い詰める世間への怒りが満ち満ちている。語り手(大江健三郎)の息子あかり(大江光)について、「最近ニューヨークに本拠を置く日本人の作曲家兼俳優(坂本龍一)が、ポリティカル・コレクトネスで知的障害者の音楽を押し出されてはたまらない、と最先端の文化英雄(浅田彰)相手に話していたが」などという台詞も出てくる。私はそのとき坂本龍一と話したこと(重い障害をもつ子どもを立派な大人にまで育て上げた