ある人の言はく、「今時の人は、よくよく理詰めの実じつらしき事にあらざれば合点がてんせぬ世の中、昔語りにある事に、当世受け取らぬ事多し。さればこそ歌舞伎の役者なども、とかくその所作しよさが実事じつじに似るを上手とす。立役たちやくの家老職は本ほんの家老に似せ、大名は大名に似るをもつて第一とす。昔のやうなる子どもだましのあじやらけたる事は取らず。」 ある人が言うことには、「この頃の人は、十分に論理的で事実めいたことでないと納得しない世の中で、昔話にあることにも、今の世では承知しないことが多い。だからこそ歌舞伎の役者なども、とにかくその演技が実際の在り方に似ているのを上手(な役者)とする。立役(善人の男の役)の家老職(を演じる役者)は本物の家老に似せ、大名(を演じる役者)は(本物の)大名に似る(ようにすること)をもって第一とする。(この頃の人は)昔のような子どもだましのふざけたこと(演技)は認めな