指揮者でピアニストのダニエル・バレンボイム氏が来月、7年ぶりに来日する。初来日から来年で50年。音楽の力を異なる価値観を結ぶ糧に変え、臆さず挑戦を続ける。現在73歳。拠点のベルリンで、世界情勢や音楽への思いを聞いた。 10月、ベルリン国立歌劇場でワーグナーの大作「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を率いた。ドイツ芸術の優位性を高らかに称賛し、ヒトラーを舞い上がらせたことで知られるが、今回は終幕、羊やヤギが草を食(は)むかのような牧歌的な風景が突然現れ、観客を驚かせた。40代の女性演出家のアイデア。国や制度に絡めとられる以前のこの地を、いま一度素朴な気持ちで見つめ直そうとする新鮮な視点に「共感を覚えた」とバレンボイム氏は語る。 「第2次大戦後に、ナチスの脈絡から外して『マイスタージンガー』を演出したのはこれが初めてではないでしょうか。ナチスがこの作品を自分たちの存在証明にしようとしたのは確