<優れた文芸小説『ロリータ』によって、男性の性的ファンタジーである「大人の男を誘惑する少女」のイメージが浸透してしまった> 日本では、ウラジミール・ナボコフの小説『ロリータ』のことを知らない者はいないだろう。 心理学者が前書きをしている犯罪者の手記、という手がこんだ形のフィクションで、その告白文の語り手が、少女性愛者のハンバート・ハンバート(仮名)だ。パリ生まれのハンバートは、ヨーロッパで過ごした子供時代に性的な体験を共有した少女アナベルのことを忘れることができず、少女のような未熟な体を持つ女性との関係で追体験をしようとしてきた。 30代後半になったハンバートは、移り住んだアメリカ・マサチューセッツ州の田舎町で、下宿先の娘である12歳のドローレス・ヘイズ(ロー、ドリー、ロリータ)に一目惚れし、欲情をいだく。彼はドローレスと一緒にいるために母親シャーロットと仕方なく結婚するが、邪魔者であるシ