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  • 【今週はこれを読め! SF編】盆暗にして繊細、くだらないからこそ輝く、宮内悠介の短篇集 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    宮内悠介の短篇集。純文学作品ではすでに『カブールの園』『ディレイ・エフェクト』という二冊の短篇集があるが、SFもしくはミステリの短篇集としてはこれが最初の一冊となる。厳密に言うと、『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』『彼女がエスパーだったころ』『スペース金融道』『月と太陽の盤』は短篇連作を一冊にまとめているので、書誌的には短篇集なのだけど、現在の出版慣習では長篇とほぼ同等の扱いだし、読者もそのように受容している。 独立して書かれた短篇は、限られた枚数で設定やキャラクターを読者に伝え、物語を完結させなければならない。長篇や連作とはまた違った技量が要求される。しかも、『超動く家にて』は、宮内さん人があとがきで「ネタに偏った作を集めたもの」と明言し、解説で酉島伝法が「盆暗純度の高い」と賞賛(!)しているのだ(そう、なんと酉島さんが解説担当。大ボーナスである)。読者としてはいやおうなく期待が

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    oono_n 2018/03/07
  • 【今週はこれを読め! SF編】暴力の神話、けものの形象 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    『ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)』 ハーラン・エリスン,川名潤,伊藤典夫,小尾芙佐,深町眞理子 早川書房 1,100円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto エリスンの邦訳短篇集はこれで三冊目。一冊目の『世界の中心で愛を叫んだけもの』から二冊目の『死の鳥』(→2016年8月書評)刊行までじつに四十三年もかかったのに、三冊目の書は一年も経たずの刊行だ。じつは雑誌に訳出されたまま埋もれていた作品がかなりあり、それが蔵出しされたのである。『死の鳥』によってエリスンへの注目が集まっていただけに、絶好のタイミングといえよう。 凝った表現と複雑な構成の作品が多かった『死の鳥』に比べると、『ヒトラーの描いた薔薇』はストレートな作品が多い。とはいえ、エリスンの作品なので、発想やガジェットではなく、情念や表現の強度で読者を引きこむ。 表題作の

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    oono_n 2017/05/02
  • 【今週はこれを読め! SF編】天使が見える神経学者、偏執狂の諜報プロ、神聖なるドラッグの探索 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    『迷宮の天使〈上〉 (創元SF文庫)』 ダリル・グレゴリイ,小野田 和子 東京創元社 2,866円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto 『迷宮の天使〈下〉 (創元SF文庫)』 ダリル・グレゴリイ,橋 輝幸,小野田 和子 東京創元社 2,866円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto 子どものころは素朴に、科学思考が信仰や神秘体験を駆逐すると思っていた。合理と実証をつきつめれば神や霊は否定しうる、と。もちろん、実際はそんな単純ではない。科学思考と信仰はじゅうぶんに両立する。 『迷宮の天使』が面白いのは、信仰を心の問題ではなく、大脳の状態として扱っている点だ。主人公のライダ・ローズはかつては気鋭の神経科学者だったが、薬物「神聖(ヌミナス)」を過剰摂取して以来、天使ドクター・グロリアが見え

    【今週はこれを読め! SF編】天使が見える神経学者、偏執狂の諜報プロ、神聖なるドラッグの探索 - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2017/03/22
    “科学思考と信仰はじゅうぶんに両立する。 『迷宮の天使』が面白いのは、信仰を心の問題ではなく、大脳の状態として扱っている点だ”
  • 【今週はこれを読め! SF編】都市伝説と認知科学的が交叉する、異色の青春冒険小説 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)』 宮澤 伊織,shirakaba 早川書房 858円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto いっぷう変わった非日常サバイバル小説。個々の要素だけを取りだせば、先行作品はいくらでもあるが、その組み合わせかたがユニークだ。 主人公はふたりの女子大生、紙越空魚(かみこしそらを)と仁科鳥子(にしなとりこ)。彼女たちは〈裏側〉の世界で出会った。 空魚は閉塞した日常に息苦しさを感じており、ひとりで心霊スポットを探索していたが、その過程で偶然に〈裏側〉へ入る方法を発見した。いっぽう、鳥子は行方不明になった友人、冴月(さつき)を探すため、これまで幾度となく〈裏側〉を訪れていた。彼女はもともと冴月の導きによって〈裏側〉を知ったのだ。 〈裏側〉は人知が及ばぬ存在が何種類も徘徊する危険いっぱい

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    oono_n 2017/03/15
  • 【訃報】吉野朔実さん - 本の雑誌特派員|WEB本の雑誌

    の雑誌」で〈吉野朔実劇場〉を連載中の吉野朔実さんが、ご病気のため4月20日にご逝去されました。 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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    oono_n 2016/05/02
    えーーー! 「月下の一群」や「少年は荒野を目指す」など、とても影響を受けました。憧れでした。ありがとうございました。
  • 【今週はこれを読め! SF編】鉄道への奇妙な情熱と、それが呼びよせる超自然の怪異 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    グラビンスキは1910年代ごろから30年代前半にかけて活躍したポーランドの幻想小説家で、まとまっての邦訳はこれがはじめて。書は鉄道に関連する怪異譚ばかり14篇が収められた短篇集だ。たんに鉄道を舞台にしているだけではなく、むしろ鉄道が持つイメージや鉄道が惹起する情動がメインであって、幻想や恐怖はその結果として呼びよせられているふうなのが面白い。 たとえば、巻頭に収められてる「音無しの空間(鉄道のバラッド)」の主人公シモン・ヴァヴェラは退職した車掌だが、廃線となってそのうち撤去される予定の線路を見守らせてほしいと願いでる。やらせてくれるなら無償でかまわない。彼の情熱は度を越しており、もう列車も通らない線路の補修までおこなうほどだ。この奇矯な執着がどこかへ通じたのだろうか、ある日、列車がやってくる音が聞こえてくる......。 この作品に代表されるように、登場人物(それがかならずしも主人公とは

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    oono_n 2015/08/11
    これはハマった。 “グラビンスキは1910年代ごろから30年代前半にかけて活躍したポーランドの幻想小説家で、まとまっての邦訳はこれがはじめて”
  • 【今週はこれを読め! SF編】異形環境と化した世代宇宙船、はたして最終的な寄港地は? - 牧眞司|WEB本の雑誌

    SFの古典的題材である世代宇宙船を正面から扱ったオールディスの第一長篇。オールディスはJ・G・バラードとならぶ英国ニューウェイヴの旗頭だが、書はそのムーヴメントが勃興する以前、1958年に発表された作品だ。しかし、すでにこの作家の特質がありありとうかがえる。ここに描かれる世代宇宙船内の異形化した世界は、物理的な環境であると同時に、ひとつの精神空間なのだ。 この船内で生まれた主人公コンプレインは地球もほかの惑星も知らず、またこの船の記録はとうに失われているので、いまいるところだけが彼にとっての唯一の世界だ。船内の空間は広大でいくつもの地域があるようだが、その全貌を把握している者は彼の身近にはいない。その〈居住区〉では前近代的な職位制度によって秩序が保たれており、コンプレインは狩人で野生動物を獲り、肉を売って暮らしていた。そこにはいちおう宗教もあって人々からあまり敬われていないが司祭もいる。

    【今週はこれを読め! SF編】異形環境と化した世代宇宙船、はたして最終的な寄港地は? - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2015/07/21
    “ここに描かれる世代宇宙船内の異形化した世界は、物理的な環境であると同時に、ひとつの精神空間なのだ”
  • 【今週はこれを読め! SF編】イーガンに先駆けて自由意志を主題化した傑作「仮面(マスク)」を含むベスト選 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    『ソラリス』の文庫化、『泰平ヨンの未来学会議』改訳につづき、ファン待望の一冊が出版された。欣快!  このベスト選の成りたちはちょっと変わっている。国ポーランドの読者投票によってレム短篇の人気作を選び、その結果とレム研究家イェジイ・ヤジェンプスキの評価を摺りあわせて暫定リストがつくられた。そして最後に、レム自身が好みでない作品を落とし偏愛する作品をつけくわえ、「ベスト15」が編まれた。原著は15篇収録だが、そのうち既存日版で入手容易なものを省いたのが、この日版『短篇ベスト10』だ。 10篇のうちわけは、《泰平ヨン》シリーズが4篇、《ツィベリアダ》(『ロボット物語』『宇宙創世記ロボットの旅』)が4篇、連作『宇宙飛行士ピルクスの物語』から1篇、どのシリーズにも属さない独立した作品が1篇。 ちなみに日版で省かれた5篇は、架空の書物についての書評集『完全な真空』に収録の4篇(邦訳は国書刊行会

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    oono_n 2015/06/23
  • 【今週はこれを読め! SF編】伝統的なSFの設定・アイデアの数々に、独自のテーマと風合いを盛りこむ - 牧眞司|WEB本の雑誌

    『怨讐星域』! この表題にたじろぐが、内容はバイオレンスやハードボイルドではなく、あくまで世代宇宙船と惑星植民の物語だ。「怨讐」はしっかりと描かれているが、それは個々人の直線的な感情ではなく、まとまった社会・文化の底流としてである。 たたずまいは伝統的なSFだ。ファンにとっては懐かしい設定やアイデアをいくつも組みあわせながら、梶尾真治一流の温かみとコクのある作品に仕上がっている。物語全体のスケールが大きく文庫版三分冊のボリュウムながら、挿話ごとに独立した山場があり、それぞれに登場人物の心情に沿った感動が味わえる。 太陽フレア膨脹による地球壊滅が予測され、世代宇宙船による脱出が極秘裏に計画された。この宇宙の方舟「ノアズ・アーク」に乗ることができるのは選ばれた三万人だけだ。ちょっと年季の入ったSF読者なら、この発端にJ・T・マッキントッシュの『300:1』を連想するだろう。しかし、マッキントッ

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    oono_n 2015/06/17
  • 【今週はこれを読め! SF編】名シェフが腕によりをかけたメニュー。絶品の素材をスペシャル・コースで! - 牧眞司|WEB本の雑誌

    これは嬉しい! 「奇妙な味」のアンソロジー、しかも中村融編の! 「奇妙な味」は江戸川乱歩の造語でもともとは探偵小説の分類のひとつだが、ぼくはジャンルの正統・王道・格からハミ出すヘンテコな小説はみんな「奇妙な味」だと勝手に理解している。書に収録された作品も、外形的にはミステリありSFありファンタジイありホラーありサスペンスあり、はっきりと超自然要素が入ったものもあれば日常リアルの地平で了解できるものもある。もともとの発表媒体もさまざまだ。ジャンルに限定されない「奇妙な味」の可能性は無辺だが、そこから逸品を選びだし、絶妙の取りあわせで読者へさしだすのがアンソロジストの腕前である。 編者あとがきに曰く〔傑作ばかりを集めても、いいアンソロジーができるとはかぎらない。並べ方しだいでは、持ち味を殺しあってしまう場合もあるのだ。逆に玉石混淆でも、並べ方さえよければ、おたがいに引き立てるかもしれない〕

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    oono_n 2015/06/09
  • 【今週はこれを読め! SF編】キャラの立った科学的ミステリと思いきや、吃驚仰天のクライマックス - 牧眞司|WEB本の雑誌

    なんと「音響SF」。音楽SFはこれまでも書かれているが、オキシタケヒコが試みるのはそれと似て非なる新領域である。わざわざ新領域と言ったのは、書が目新しいアイデアだけではなく、世界認識そのものを提示しているからだ。人間はおもに五感を媒介して世界とつながっている。ところが、そのつながりが言語化される際、視覚情報へ大きく偏る。では、聴覚を通して知る世界とはどんなものだろう。 書は四篇の連作からなる。その開幕篇「エコーの中でもう一度」には、失った視力を補うため聴覚による世界認識を発達させた花倉加世子が登場する。彼女はコウモリやイルカと同じように、音波の反響で位置を測定し形を知覚する。この反響定位(エコーロケーション)は記憶と連動し、視力をなくす前に録音した町の音を聞くだけで、その当時の様子がありありと想起できる。 加世子は懐かしい録音からノイズを消す困難な作業を、武佐(むさ)音響研究所へと持ち

    【今週はこれを読め! SF編】キャラの立った科学的ミステリと思いきや、吃驚仰天のクライマックス - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2015/06/03
  • 【今週はこれを読め! SF編】ドラッグ天国、ディストピア地獄、幻覚と現実のはざまの泰平ヨン - 牧眞司|WEB本の雑誌

    《泰平ヨン》シリーズの三冊目にして初めての長篇。主人公の今度の行き先は、不思議と不可解に満ちた宇宙ではなく、地球の人口問題をテーマにした未来学会議が開催されるコスタリカだ。あまり乗り気ではなかったヨンだが、畏友タラントガ教授から「君が適任者」と言われたら断れない。 到着したコスタリカはずいぶんキナ臭い。ホテルの部屋には鉄の棒や、擬装用ケープ、登山に使うロープの束が備えられており、ドアには「この部屋には爆弾がないことを保証します」との札がかかっている。会議一日目の朝には、過激派がアメリカ大使館から領事と職員を誘拐し、政治犯を釈放しないと人質を切り刻むと脅迫する。 会議の場所は高級ホテルだが、参加者たちも無事ではいられない。水道水のなかに仕込まれたクスリのおかげで無闇な多幸感に襲われててんやわんや。同じ会場で開催中の解放文学会議(参加者には近親相姦を呼びかける文書を公開している連中も)と交錯す

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    oono_n 2015/05/26
    牧さんによる書評。ありがとうございます。 “人間の欲望を巧みに満足させて秩序を維持している未来社会が、いかに周到に偽装されたディストピアかを暴いていく過程だ。レムならでは文明批判が冴えわたる”
  • 【今週はこれを読め! SF編】圧倒的「他者」としてのソラリス、愛と畏怖を生む「他人」としてのハリー - 牧眞司|WEB本の雑誌

    大傑作。SFで一冊だけ「不朽の名作」をあげろと言われれば、迷いなく書を選ぶ。偏愛基準ならもっと大切なSFはいくらでもあるし、レムの作品系列のなかでも個人的思い入れの点では『天の声』のほうが上位にくるが、SFをひとつの文化運動体として捉え、それがただ一冊の精華を生みだすためにあったとすれば、その一冊とは『ソラリス』だと思う。ちょっと極端な前提だが、それほどの作品だ。 この文庫版に付された訳者解説「愛を超えて」で、沼野充義氏はこの作品についてレムが書いたエッセイを紹介する。そのなかの一節にこうある。 〔私が重要だと考えていたのは、ある具体的な文明を描いてみせるというより、むしろ「未知なるもの」をある種の物質的な現象として示すということだったのである〕。 「未知なるもの」を扱うのはSFの専売特許ではないが、それを「物質的な現象として示す」のはSFの固有性だろう。この作品でレムは「未知なるもの

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    oono_n 2015/04/29
  • 【今週はこれを読め! SF編】クビーンの宇宙論、あらかじめ破滅を胚胎した夢の国 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    幻想都市文学の傑作。新訳ではなく復刊だが、これを取りあげないわけにはいかない。一種のユートピア/ディストピア小説としても読めるが、舞台となっている「夢の国」は政治的背景や社会学的リアリティによって特徴づけられてはおらず、そこに住む/訪れる者を包みこむ領域として----粘度と匂いのある空気のように----存在している。 奇妙なことに、この国は新しく建造されたものなのに最初から古びている。数年前に前代未聞の富を手にしたクラウス・パテラが自らの理想(イデー)を実現させようと、中央アジアの三千平方キロメートルの土地を購入し、すべてをお膳立てしたうえで住民を呼びよせた。首都ペルレ市の建物はすべてヨーロッパのあらゆる地方から古い家屋をわざわざ移築し、この土地に調和する町並がつくられている。建物だけでなく、この国では新しいものは何ひとつ用いられない。価値のある骨董もあれば色あせた古道具もあるが、パテラの

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    oono_n 2015/04/14
  • 【今週はこれを読め! SF編】コージー派侵略SFの新展開にして、薄曇りの学園青春小説 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    教室が小刻みに揺れ、窓の外へ目をやると空を火球が横切っている。クラスメイトが「隕石だ」と言う。しかし、別な者がそれを否定する。あれは落ちる前に減速した。 飛来物の目撃からはじまり、平和な日常を一変させる侵略が語られる。この運びは侵略SFの古典『宇宙戦争』と同様だ。ウエルズ作品はおよそ1カ月間の出来事だったが、『シンドローム』は7日間で進行する。小説中で「7日間」と区切られると、反射的に旧約聖書の天地創造を連想するが、この作品の7日間はたんに高校生の生活感覚に沿っているのだろう。つまり学校へ通って休みを迎えるサイクルだ。そこに描かれているのは、SF(宇宙からの侵略)以上に、学園を舞台にした青春劇である。 主人公であり語り手でもある「ぼく」は、火球目撃の日の放課後、別なクラスの平岩勇に誘われて、墜落現場を見に行くことになる。当は乗り気がしないのだが、平岩が一緒に行こうと言いはる。ぼくはSF映

    【今週はこれを読め! SF編】コージー派侵略SFの新展開にして、薄曇りの学園青春小説 - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2015/02/06
    “ジョン・ウィンダムの作品について「コージー派の破滅・侵略SF」と評したのは山岸真だが、『シンドローム』もその系列に位置づけられそうだ”
  • 【今週はこれを読め! SF編】〈エリアX〉への入界(イニシエーション) - 牧眞司|WEB本の雑誌

    地球上に突如あらわれた狂った生態系の異界。それは〈エリアX〉と名づけられた。出現してからこれまで11回もの調査隊が派遣されているが、一般にはまだその存在は認知されていない。政府は「軍の実験的研究により、局所的な環境破壊が発生した」との見解だけ、過剰なメディアの報道のなかにまぎらせ、うっすらと流すだけだ。世間はだれも関心を持たないし、当の調査メンバー候補たちも目先の任務しか見ていない。訓練が厳しく、人から伝えられる情報に信憑性などないからだ。わかっているのは、これまでの調査で無事に帰還したものは一人もいないという事実だ。第2次調査隊は全員が自殺、第3次調査隊は互いに殺しあった。とりわけ奇妙なのは第11次調査隊で、彼らは〈エリアX〉のなかで一人ひとり忽然と姿を消し、魂が抜けた様子で自宅へと戻ってきた。彼らの話は要領を得ず、やがて全身が癌におかされていることが判明する。 『全滅領域』は第12次調

    【今週はこれを読め! SF編】〈エリアX〉への入界(イニシエーション) - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2014/11/12
    あまり関心がわかなかったけど、牧さんの紹介で購入決定>全滅領域
  • 【今週はこれを読め! SF編】世界に色を差す細やかな筆致。逆説的な読書家をめぐる謎。 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    SF史を飾る古典が、伊藤典夫の新訳によって鮮やかによみがえった。これほど人口に膾炙した作品を先入観なしに読めというのは無理な注文かもしれない。しかし、記憶や気持ちをできるだけリセットし、ブラッドベリの言葉と向きあうべきだ。彼が語る声に耳をすませよう。プロットだけ追うのではなく、内容だけ汲みとろうとするのではなく、文章の粒・リズム・感触を確かめる。そこに作品の命が宿っている。 主人公のガイ・モンターグは、社会が禁じているを所有者の家ごと焼却する昇火士(ファイアマン)だ。彼が生きている世界は黒、灰色、金属光沢で構成されている。色がないわけではないが、それは燃えたつ炎、もしくは冷たい電気の色だ。しかし、モンターグはある晩、隣家に越してきた娘クラリスに出会い、彼女によって世界にまったく別な系統の色彩がもたらされる。菫色の目、ピンクのバラ、黄色いタンポポ、茶色の牛。そしてなによりも印象的なのは、柔

    【今週はこれを読め! SF編】世界に色を差す細やかな筆致。逆説的な読書家をめぐる謎。 - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2014/07/22
    “プロットだけ追うのではなく、内容だけ汲みとろうとするのではなく、文章の粒・リズム・感触を確かめる。そこに作品の命が宿っている”
  • 【今週はこれを読め! SF編】哲学と脳科学を結ぶ宮内悠介、世界をひっくりかえす藤野可織 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    7冊目となる創元SF文庫の「年刊SF傑作選」。前巻まで、よくわからないがカッコよさげな四字熟語のタイトルだったが、こんかいから収録作から表題をつけるようになって、まずはめでたい。覚えやすい。 2013年に発表されたあまたのSF短篇のうちから選りすぐって......が主旨だが、作者の意向、各版元の事情、アンソロジーとしてのバランス、文庫一冊という物理的制約などがあり、編纂はパズルを解くようだろう。しかも、苦労してできあがったラインナップを見て、半可通の野次馬(ぼくだ!)が「コレが傑作って、ネタじゃないの?」「ソレを入れるくらいならアレを入れろよ!」と勝手を言うのだから、アンソロジストとは報われぬ仕事である。ま、書の編者ふたりはそんなことすら見越したうえで、むしろ見せつけるように仕掛けているだろうが。 まず、読者がかぶるから大森編『NOVA』(河出文庫)からは採らないという方針は、アッパレ

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    oono_n 2014/07/08
  • 【今週はこれを読め! SF編】読むタイムマシン、書くパラドックス - 牧眞司|WEB本の雑誌

    「SF界/文芸界注目の俊英」(コシマキの惹句)とうたわれるチャールズ・ユウの第一長篇。ふたつの"界"にまたがっている。なんだかカッコいい。 SFっぽい文芸も、文芸っぽいSFも、このごろずいぶん増えてきたとはいえ、なかなか垣根(上の惹句なら"/"の隔たり)は高い。 頑固なSF読者「うっぷっぷー、過去を甦らせるなんて言って、あんなバカ厚い小説を書くって、どれだけヒマなんだよ。SFだったらタイムマシンでスマートに収めるのに!」 狷介な文芸読者「うわー、時間テーマなんて言って、アホくさいタイムトラベル理論を捻くり回すって、めっちゃセンス悪っ。文芸だったらマドレーヌと紅茶でエレガントに済ませるのに!」 と、まあ、こんなふう(すみません、極端に模式化しています)。 そんなところへ颯爽とあらわれたチャールズ・ユウが「まあまあ、ケンカはやめて。これでも読んで」と差しだしたのが書『SF的な宇宙で安全に

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    oono_n 2014/07/04
  • 【今週はこれを読め! SF編】神学と妄想との捩れ、逡巡する物語、螺旋状に深化する思索 - 牧眞司|WEB本の雑誌

    カルト的支持も一部にあるディック晩年の問題作『ヴァリス』が新訳された。大瀧啓裕の手による旧訳にくらべ、こんかいの山形浩生訳は語り手「ぼく」の言葉づかいがずいぶんくだけており、ところどころにユーモアや皮肉がにじむ。 たとえば、〔前に精神科医に、治るには二つのことをしなきゃいけないよ、と言われた。ヤクをやめること(やめてなかった)、そして人を助けようとするのをやめること(いまでも人を助けようとしていた)〕といった具合。 喋り言葉の勢いもよく活かされている。〔これに対してぼくは個人的にこう言いたくてたまらない。ファット、そりゃテメーの話だろ、と〕 後者の引用で「ぼく」がツッこんでいる相手(ファット)とは、じつは「ぼく自身」だ。『ヴァリス』は自伝的作品だが、"必要不可欠な客観性を得るべく"三人称の主人公ホースラヴァー・ファットが設定されている。しかし、その"客観性"を宣しているのは「ぼく」自身なの

    【今週はこれを読め! SF編】神学と妄想との捩れ、逡巡する物語、螺旋状に深化する思索 - 牧眞司|WEB本の雑誌
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    oono_n 2014/05/29