『山椒魚』 山椒魚は悲しんだ。 彼は彼の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることが できなかったのである。今はもはや、彼にとっては永遠の棲家である岩屋は、出入口のところがそんなに 狭かった。そして、ほの暗かった。強いて出て行こうとこころみると、彼の頭は出入口を塞ぐコロップの栓と なるにすぎなくて、それはまる二年の間に彼の体が発育した証拠にこそはなったが、彼を狼狽させ且つ 悲しませるには十分であったのだ。 「何たる失策であることか!」 (以下略) ご存知、井伏鱒二の処女作(『幽閉』の改稿作品)『山椒魚』の冒頭です。以下あらすじ。 岩屋から出られなくなった山椒魚は、日々を鬱々として過ごすうちに、紛れ込んできた蛙を自分と同じ状態に してやろうと閉じ込めてしまいます。初めは口論ばかりしていた山椒魚と蛙ですが、2年が過ぎたある夏、 蛙の嘆息をきっかけ