エネルギーは無から生じることも失われることもない。この「エネルギー保存則」は物理学で最も重要な基本法則の1つだ。しかし,この法則は広大な宇宙全体に対しては成立しないのではと思えるような現象がある。はるか彼方の銀河から届いた光の波長が引き伸ばされる「赤方偏移」と呼ばれる現象だ。 波長が長い光ほどエネルギーが低いことから,光子は遠くの銀河から私たちの太陽系まで旅する間にエネルギーを失っていることになる。光子は本当にエネルギーを失ったのだろうか? 宇宙論的な赤方偏移は光が伝わる空間そのものが膨張しているために起こり,緊急車両のサイレン音など,音源と観測者との間の相対運動が原因で起こるおなじみの「ドップラー効果」とは別の現象だと一般に考えられている。しかし,銀河と観測者の運動を「時空」上の軌跡としてとらえると,銀河の赤方偏移は,放射源である銀河が観測者から遠ざかっているからだとも解釈できるようだ。
![宇宙のエネルギー保存則は破れているか](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/8cf2c3cd43f393be8455ac29afcd14e7fda89ad9/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.nikkei-science.com%2Fwp-content%2Fuploads%2F2010%2F08%2F201010_028.jpg)