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2014年10月17日のブックマーク (4件)

  • かぐや姫は帰らない - 傘をひらいて、空を

    それでどうするのと、結果をほとんどわかっていながら訊く。彼女はあははと笑う。少しも悩んでなんかいなくて、どちらかというとちょっと苛ついている、そういう気配のはりついた、笑い。私はそのこだまとしてあんまり意味のない笑いを笑い、その残響が消えるまで、半開きの口で待つ。私はそういうばかな犬みたいな役割がすごくよく似合うし、そのことをけっこう誇りに思っている。重要ではなく、危険ではなく、半ば空洞のような、よくはずむ会話のための少し気の利いた壁みたいなもの。そういう役回りが必要な場面はけっこうあって、誰も自分がやりたいとは思わないんだろうけれど、やっている側の私にしてみればかなりお得で、やたらと人の話が聞ける。私は人の話を聞くのが好きだ。 メールの返信しないんだから悟ってくれないかなあと彼女は言う。今度の人は何がいけなかったのと私は尋ねる。それを受けて彼女は、何度か事をした相手がいかに唐突な意思表

    かぐや姫は帰らない - 傘をひらいて、空を
    ostd
    ostd 2014/10/17
    “あなたは、ほんとうは、誰かと真剣につきあいたくなんかなくって、だから相手もいいかげんなほうが都合がよくて、飽きて切ったら自分が悪者みたいに見えるまじめな相手ではいけなくて”
  • あなたの百の繰りかえし - 傘をひらいて、空を

    マキノって電話かけるとだいたい出るよね、暇なの。うん暇なの、それで日はどのような話題で私の暇をつぶしてくださるのかしら。待て、その言かただと気の毒な暇人のマキノが王さまで俺がお抱えピエロみたいな感じするからやめろ。 新しい彼女の話かな。そう新しい彼女の話、つきあってみたら、めんどくさかった、愛を確認しちゃう系。彼女、若いもんねえ、若い人って半分くらいは情緒不安定じゃん、外見はつるんとしてても、一皮むくとどろどろだったりする、あれってなんだろうね、ホルモンバランスとかかな、あと成育過程で積み残した課題が利子つけて戻ってくるのがおおむね二十代半ばだからという気もする、まあとにかく、税金だと思いなよ、若い彼女税。税金かあ。若くってかわいくってあなたにぞっこんなんだから高い税金じゃないよ、おじさんに訪れた最後のチャンスかもよ、がんばれ。他人事だなあ。他人事以外のなにものでもないよ。 何度いっても

    あなたの百の繰りかえし - 傘をひらいて、空を
    ostd
    ostd 2014/10/17
    “私が話を聞くのは、私がその人になんらかの愛情を持っていて話を聞くことそのものが目的になるときだけ、だから、相手に変われと思うことはない”
  • 分母を大きくする - 傘をひらいて、空を

    すこし足を伸ばして深夜営業のスーパーマーケットに寄るのが面倒だった。頭のなかにアスパラガスとトマトとバターと白身魚の姿がよぎる。面倒だったから無視して買い置きのレトルトカレーで済ませる。シャワーを浴びていてシャンプーとコンディショナー、石鹸が二種類、シャワージェルが二種類、アロマオイルの小瓶が四つ、ちまちま並んだ籠に足を引っかける。舌打ちをする。バスタオルを洗うのが面倒でハンドタオルを適当に使う。髪をがしゃがしゃかきまわす。布団にもぐりこむ。クーラーの温度を適切に設定していないことに気づくけれども腕を動かすのがいやだ。暑いとか寒いとかいちいちモニタリングして調整してやるなんて、そんな面倒なことはしたくなかった。 彼女はそのように話す。私はそれを聞く。そういうことは私にもあるよと言う。それから付けくわえる。クーラーをがんがんにつけたまま寝たら風邪をひく、風邪をひいたらとっても不便だ、温度だけ

    分母を大きくする - 傘をひらいて、空を
    ostd
    ostd 2014/10/17
    “自分が自分のいいものではなくて、もてなしてやるかわいいものではなくて、なんだかそこにあって邪魔な影のようなものでしかないとき。”
  • オツベルを捨てる - 傘をひらいて、空を

    私はみんなを見渡す。みんなこぎれいな格好をして適度に酔ってほぐれ適切な範囲で高揚した声をあげている。適応、と私は思う。私たちはバランスのとれた大人でどこも破綻していない。同じように集まって楽しんでいても学生時代ならそれぞれのほころびがちらりちらりと見えていた。いちばん安定している人を選んだとしても両手をまっすぐ伸ばして丸太の橋を渡っているような危うさがあった。若いというのはそういうことで、だからあのころ仲間のように思っていた人のいくらかとはおそらく死ぬまで会うことがない。 私の斜め前の席で話している彼女の顔にもほころびはなかった。彼女はかつて彼女の母に肯定を供給する機械のように暮らし、その一環として稼ぎの半分を家に入れ家事労働を負担していた。私たちがどんなに言っても聞かなかったのにある日突然母と母の溺愛する兄を置いて彼女は家を出て、それから一度も戻っていない。そのことを私は確認する。彼女は

    オツベルを捨てる - 傘をひらいて、空を
    ostd
    ostd 2014/10/17
    “私たちはバランスのとれた大人でどこも破綻していない。同じように集まって楽しんでいても学生時代ならそれぞれのほころびがちらりちらりと見えていた。”