前回紹介した3月の朗読会で村上春樹さんが自ら朗読、発表した短編小説「夏帆(かほ)」が、5月発売の文芸誌「新潮」6月号に掲載された。同号は同誌の「創刊120周年記念特大号」に当たり、その巻頭に特集「春のみみずく朗読会」として、やはり朗読会で発表された川上未映子さんの短編「わたしたちのドア」、さらに「みみずくたちの夜」と題する気鋭の詩人・作家、マーサ・ナカムラさんによるリポート文とともに載った。 長い歴史を誇る雑誌の記念号を、あの朗読会の模様が、写真入り(ステージ上のソファに腰かける2人の作家、および、それぞれの朗読風景の計3枚)で飾る形になったのは、2020年代の一つの記録として、のちのち意味を持つだろう。ともあれ、朗読会の際にはオフレコとされた新作の内容が公表され、誰でも読めることになったのは喜ばしい。 近現代の日本を比喩的に表現? その新作についてネタバレにならない範囲で触れておこう。作