ミノタウロス / 佐藤亜紀 ★★★★☆ 二十世紀初頭、政情不安のウクライナでヴァシリ・ペトローヴィチは青年になっていた。父親はもともと下層の労働者だったが、なりゆきで地主から土地を譲り受けられ、さらに共同経営者のシチェルパートフに経営の才を見出されて成金農場主となった男である。行かず後家だった母親は金ずくで輿入れし、義理のように二人の男の子を産んで、容姿の整った兄が軍の幼年学校に入った後、キエフに帰った。ヴァシリは高等遊民として育ち、本ばかり読んでいて、女癖が悪かった。 キエフでの学校通いをやめて故郷に帰ってきたヴァシリは、サヴァを子分格としてつるみ、その姉テチヤーナを自分の女にしていた。姉弟にはもうひとり長兄のグラバクがおり、これは働きもしないで社会主義活動にふけり、地主の馬鹿息子であるヴァシリを白眼視していた。やがてテチヤーナの妊娠が発覚しグラバクの知るところとなると、グラバクは逆上し