ジョン・メイナード・ケインズの主著『一般理論』が山形浩生の新訳(正式な邦題は『雇用、利子、お金の一般理論』)で講談社学術文庫に入った。すでに電子版もインターネットで公開されているが、同時に手頃な紙の本として読めるようになったのは、世界が財政金融危機に襲われている折だけに、朗報だ。だがそれは訳者解説で山形が言うように、この本に「危機への対策を打ち出し、経済システムの瓦解を防ぐ鍵があ」るからではない。逆に、この本こそ現在の危機をもたらした思想的な元凶であり、その主張の誤りを理解することにこそ危機克服の「鍵」があるからだ。 ベルリンの壁崩壊とともに旧東側諸国が破綻し、それらを思想的に支えていたマルクス経済学の誤りが決定的になった。それからおよそ二十年たった現在、欧米の財政危機をきっかけに今度は旧西側諸国の行きづまりが明らかになりつつあるが、その知的責任は「大きな政府」を正当化してきたケインズ経済