◆要旨 障害者運動から生み出されてきた障害学においては、障害者の当事者性が理論的な前提となっている。この前提は日本の障害学研究にとってもひろく受け入れられていると思われる。だが、道徳的善悪の哲学的分析を使命とする倫理学、とりわけ分析的伝統に立脚する現代の倫理学にとって障害者の当事者性はひとつの躓きの石であり続けてきた。たとえばロールズに代表されるリベラリズムは障害者をその理論的枠組みから排除してきたかせいぜい二次的な役割のみを押しつけてきたと批判されている。本報告では、このリベラリズムが障害者を理論的に排除してきたという「通説」を検討する。この趣旨のロールズ批判については、日本ではセンのそれがすでに紹介されている。そこで、リベラリズム陣営内部で戦わされた論戦を、ロールズとセンの応酬を振り返りながら、障害者は正義にかなった社会の主体だともっとも積極的に主張するヌスバウムの議論を参照していきた