父さんがいつも連れて行ってくれたのは 古いこじんまりとしたラーメン屋さん。 のれんをくぐった狭い店内には いわゆる昔ながらの醤油ラーメンの香り。 厨房の親父さんが見えるカウンター席と 女将さんが注文を聞きにくる小さな赤いテーブル席。 父さんが注文していたのはいつもチャーシュー麺で。 僕は小さな茶碗に母さんのラーメンを分けてもらって半分こ。 父さんがズルズルとチャーシュー麺を食べる姿はかっこ良かった。 500円でお釣りがくるラーメンと違って 父さんの食べていた700円のチャーシュー麺は神聖な存在だった。 いつか僕も一人で一人前のラーメンを食べてみたい、と思ってた。 父さんみたいにズルズルと音を立てて かっこ良くチャーシュー麺を食べてみたい、と思ってた。 ちっぽけな夢ばかりを胸にたくさん抱えて 僕は早く大人になりたい、と願ってた。 だけど あのとき永遠にも感じてた一学期は 今思えば本当に儚い数