「足らない」は「足る」(五段活用動詞)の打ち消しの言い方,「足りない」は「足りる」(上一段活用動詞)の打ち消しの言い方である。どちらも誤りとはいえないが,現在,「足りない」のほうが共通語として規範的な取り扱いを受けている。 このように,五段活用と上一段活用との間でゆれている動詞には,ほかに「借る―借りる「飽く―飽きる」などがあるが,現在,共通語としてはいずれも上一段活用のほうが一般的である。 これらの語は,元来「足る」「借る」「飽く」という四段活用動詞であった。「足る」は,上代から中古,中世を経て用い続けられた語であるが,「足りる」は,江戸後期に,江戸語として現れて以来の言い方である。したがって,その時期では,上方語系統の「足る」と,江戸語の「足りる」とが対立していたが,この江戸語が東京語に引き継がれ,現代共通語では,特に話し言葉の場合「足りる」のほうがはるかに優勢になっている。 「借る」