ぼくにも神様というものがいて、その一人がケヴィン・リンチである。そのかれの未完の遺作が『廃棄の文化誌』だ。 建築や都市計画方面でケヴィン・リンチを知らない人はモグリ以下なのだが、この方面に興味のない方にどう説明すればいいのかは、よくわからない。建築家、都市計画家といっても「これ!」という派手な作品があるわけでもない。比較的有名なのが名著『都市のイメージ』かな。街のわかりやすさ、思い描きやすさを重視し、デザイナーや計画屋の勝手な思い込みではなく、実際に利用する人々が実際に何に反応しているのかをきいて、そこから抽出した要素をもとに街づくりを考えようという本。 こう書くと、いかにもあたりまえに聞こえてしまうのが悔しいのだが、それがケヴィン・リンチの特徴でもある。極端な、やもすると気を衒った議論を展開して常識をバッサリ切り捨ててくれる本も爽快だが、リンチの著書はすべて、そういうところのまるでない本