「私の周辺には、皇室典範の付則に『今上天皇』と明記することを主張する人が多い。『天皇』とだけ書く方が良いかどうかは、考えさせてください」。安倍晋三首相は2月9日、首相官邸で自民党の高村正彦副総裁が示した典範付則改正案に戸惑いの表情を浮かべた。 「今上天皇」とは現在の天皇陛下を指す。明記すれば「一代限り」という意味が明確になる。首相を支える保守層には今回の退位が先例となって退位が制度化することへの警戒感がある。首相が「今上」の表現にこだわったのはこのためだ。 だが、高村氏は国会での合意形成には、譲歩が不可欠だと腹を決めていた。高村氏が示した案は、退位を可能とする特例法と典範が「一体」とするもの。恒久制度化を求める民進党に配慮して先例としての意味も含まれ、「今上」と書き込むことはあり得なかった。